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言われた方の若い医師が聞き返すと、医師は「心マ再開だ。さっさと始めろ」と一喝してから加藤に
「美咲ちゃんの血液型はA型で間違いありませんね?」
と確認してから壁の内線電話を取り
「三オペだ、放送して三オペに人間を戻せ。あとA血、それから……酸素だ。急げ」
と早口でまくし立てた。
ベッドでは、一喝された医師が美咲の遺体に心臓マッサージを始めている。
……なんだ? いったい何が始まったというのだ?
事態が飲み込めずにいる加藤に、内線電話を終えた医師が言う。
「お父さんは、ひとまず退室願います」
「先生、あの……いったい何が」
「私からは申し上げられません。ロビーでお待ち下さい」
柔らかだが有無を言わさぬ口調、そして真剣な顔だ。
美咲のために涙を見せたこの医師に言われては、さすがの加藤も素直に従うほかなかった。
加藤は手術室を出て、病院の入口近くにあるロビーへ向かう。
その途中で、先刻まで手術室にいた他の医師、看護師らが慌ただしく手術室の方へ戻っていくのとすれ違ったが、事態を尋ねる雰囲気ではなかった。
ロビーで柔らかなソファを見つけ、加藤は深く身を沈める。
……美咲が死んだ。
妙な電話で妙なことを言われて邪魔をされたが、冷静に考えて美咲は死んだのだ……この目の前で。
東署から受けた電話では、美咲はトラックに轢かれたとのことだったが、轢かれたと思われる下半身は布に覆われていたものの、まさに「轢かれた」としか表しようがないほどに薄かった。
そこに体があるとは思えないほどに、だ。
腹部から下はおそらく手の施しようがなかったのではないか。
とすれば、美咲が息を引き取る前に加藤が病院に着くことができたのは、岩崎のお陰に他ならない。
岩崎のお陰で美咲は最期に父親に見守られて逝くことができたのだ。
微笑みを浮かべながら……。
岩崎に大きな借りができた。
加藤はそんなことを考えた。
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