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〝12月17日午後10時20分ころ、船川市内の県道で、中学二年生の女の子が4tトラックに撥ねられて死亡した。事故があった場所は線路を跨ぐ跨線橋の最上部分で、亡くなったのは市内の中学校に通う加藤美咲ちゃん(14歳)。この事故で警察は、トラックを運転していた会社員の中西正一容疑者(34歳)を過失運転致死の疑いで現行犯逮捕し、事故の詳しい状況を調べている。亡くなった美咲ちゃんは全身を強く打ち、ほぼ即死であったとみられ、搬送先の病院で死亡を確認した〟  ……即死だと? 美咲は俺が病院に着くまで生きていたのだ、断じて即死ではない。  いい加減な報道をしやがって、と加藤は一瞬苛立ちを覚えたが、すぐに冷静になり、そして考え始めた。  事故があったのが午後10時20分ころ、そして美咲の臨終が告げられたのが午後10時52分……。約30分間だ。  即死という文字は、事故の現場で絶命した状況を連想させるが、当事者感情を排すれば、この30分間という時間は即死の範囲内なのかもしれない。  致命傷を負っても、実際に死亡するまでにはそれなりの時間がある場合の方が多いと思われる。  つまりこの記事が物語っているのは、現場の時点で既に手の施しようがないことが明らかで、救急車で病院に運んだものの、予想どおり間もなく死亡が確認された、ということだ。  美咲が息を引き取る5分前には病院に着いていた。……5分引いて約25分。  加藤は順を追って考える。……午後10時20分に凄惨な事故がおき、突然の出来事に平常心を奪われた者から通報がなされ、警察や消防が事故の現場に向かい、現場に着き、動かない美咲を救急車に乗せて病院へ向かう……そして病院に着く。  加藤が手術室に入った時には既になすべき処置を終えていたのだから、さらに5分引いて約20分……。  事故の発生から約20分で美咲は病院に着いたのだ。そして、その濃密な20分間に東署は、加藤へ連絡するという配意を挟んだ。  ……東署にはよほど気が利いた人間がいるのか、いや、そもそもどうやって美咲の身元が判明し、手際よく加藤の連絡先にたどり着いたのか。  ……まだ情報が足りない。記事では事故現場である跨線橋の場所も分からないのだ。  そして、嫌でも向き合わなければならないのが、美咲を轢いた男への感情の持ちようだ。
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