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 34歳のトラック運転手、中西正一という男が美咲の命を奪ったのだ。  この男は警察署で何を語っているのか。……知りたい、知らなければならない。  そして、どんな状況であったとしても、罪のない美咲に無惨な死をもたらしたこの中西という男に報いを受けさせなければならない。  病院から解放されたらタクシーで東警察署に乗り込もうか。いや、まずは電話をするべきか。  加藤は時計を見る。  時刻は午前一時になろうとしていた。  加藤が悶々と考えているところに、美咲を看取ってくれた医師が優しい顔をしてやってきた。加藤の隣に腰掛ける。 「加藤さん、大丈夫ですか?」 「……分かりません。どうなんでしょう」 「美咲ちゃんは、きっと最期にお父さんの顔を見て安心できたと思います」 「それも分かりません。もう、確かめることもできませんし」 「私も数え切れないほどの臨終に立ち会ってきましたが、あれ程の交通事故で、息を引き取る前に御家族が間に合ったケースはあまり記憶にありません。きっと美咲ちゃんはお父さんを待っていたんだと思いますよ」 「……ありがとうございます」 「お辛いでしょうが、どうか心を折らないでください」 「これを……辛い、というんですかね。まだ実感が付いてこないです。これから、ですかね。辛くなるのは」 「そうですか。……加藤さん」  それまで床に目を落として話していた医師が、加藤に向き直る。 「なんでしょう」 「加藤さんが仰るとおり、これからが辛いかもしれません。……いえ、必ず辛いと思います。ですが、美咲ちゃんの最期は微笑んでいたことだけは、どうか忘れないでください」 「そうですね……分かりました」  この医師はどこまでも誠実だ。加藤は心からそう思った。
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