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「けっこう良い出来映えですよね……この文章」 (ああ。今年の国連はやりますよ、という意気込みがしっかり伝わってくる。檄文だ) 「そうですよね……。やる気が読み取れます。しかも……それなのに」 (ああ、結局なにが言いたいのか、さっぱり判らない。あいつは天才だよ。こういう、人を煙に巻くような文章を生み出す才能がある) 「しかも、世界中のメディアに送り付けたのに日本の寄稿先が賛経だけというのも粋ですね」 (ああ、わだかまりのあるところにあえて投げるところが計算高い。ああ、そうそう、お前のシナリオは4月1日にぶちまけるそうだ) 「え……それはホワイトハウスとも調整済みですか?」 (そうらしい。コードネームは『フロンティア』だそうだ。ホットラインは常に開けておけよ。お前がすべての中心だからな)  フロンティア……。いいコードネームだ。  若干独り歩きしているようだが、俺の身分はどうなるんだろう? 「いいネーミングですね。……それで、あの、私の身分はどうなるんですか?」 (4月1日付で国連に移す)  国連職員になれというのか。  完全にレールを外れるな。  しかし、もう後戻りはできない。 「……分かりました」 (怖じ気づくなよ。風向きは悪くないんだ) 「そうですね。全力を尽くします」 (それはそうと、例のインターネット屋が攻撃されてるじゃないか。誰がやったか知らないがざまあみろ、だな) 「……ええ、そうですね」  そうだ、俺には美咲もいるのだ。そもそもこの計画は美咲のためでもある。  そして美咲自身の力……。まだ未知数だが、計り知れない力を手に入れていることは疑いようがない。  それも含めて俺は今、強い追い風の中にいる。  そこからは日が経つのが早かった。加藤の仕事はもともと国連の政策に関することが担当なので、「フロンティア」にかかる仕事をしていても特に怪しまれることはなかった。  まあ「なんか最近、偉い人と話すことが多いな、課長」くらいには思われていたようだが……。  岩崎と富永は、相変わらずちょくちょく家に殴り込んできては部屋を散らかし、好きなだけ騒いで帰っていった。  ある時などは、加藤が帰宅するとなぜか勝手に二人で酒盛りをしていた。記憶にないのだが、どうやら以前、俺は富永くんに合鍵をあげたらしい。  富永くんは「ぜったいに返しませんからね」と言っている。どうしたものか……。
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