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「今、大局的に世界は停滞しています。大国から小国まで、至るところ経済は疲弊し、領土問題は膠着し、永い伝統のある宗教は偏見を排除しきれずにいます。限りあるものを何者かが所有するという概念でいるかぎり世界は停滞を続け、いさかいは後を絶たないのではないかと私は思います」  うん、悪くない……。いい具合に何を言ってるのか判らない。王さんの真骨頂だ。 「そこでこのたび国連は、国連直轄の永世中立国を太平洋に建設することにしました」  会見場は一気に凍りついた。……ここでまた王が間を取る……。  この間は大事だ。……大事だが、騒然となる前に次を言わなければ収集が付かなくなるおそれがある。  王さん……。加藤の手に汗が滲む。 「……あの、事務総長……それは」 「効果についてはこの話を最後まで聞いてから各国に持ち帰って皆さんゆっくり考えてみてください。この計画は国連を主体とするスタートアップ事業です。経済的な効果もあるでしょうし、当然平和維持の効果も期待しています。新設国は共和国ですので君主は置かず、国民になるのは審査を受けて出資をした人たちになりますが、世界中から分け隔てなく募りたいと思います。また、この新設国の統治及び国内法の制定は国連に新設する第七委員会が行うものとし、そのための準備室を本日付で国連の日本支部に設置しました。えー紹介します、こちらが国連第七委員会準備室長のジン・カトウ氏です」  紹介を受けて加藤は起立し、事務総長に代わって壇上につく。会場はざわついているが、まだ抑えが効いている。  よし、これならいける。会場をゆっくり一瞥してから加藤は口を開く。
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