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「只今事務総長から紹介いただきましたジン・カトウと申します。本日、国連の日本代表代行特使兼国連第七委員会準備室長を拝命いたしました。事務総長の説明を若干捕捉させていただきたいと思いますが、その前に個人的な想いを少し述べさせてください。私の母国である日本は、小国ながら世界でも指折りの先進国です。しかし他国の例に漏れず国内に問題は山積で、何より先進国の中でも国民の幸福度が著しく低く、自殺率は異常と言ってよい数値を誇示し続けています。ではどうすればよいのか、その答えはむしろ途上国と呼ばれる国々の中にこそあると私は考えています。国が富もうと、そこに住まう者が不幸ならばそれは失政と呼んで差し支えないと思うのです。もちろん日本国政府は国民の幸福を第一に考えて政治を行っていますが、元来の国民性やその他内外の様々な要因により、なかなか効を奏さない現状にあります。一方、世界において国と国との関係は、手を組むにしろ敵対するにしろ、利害をもって相対するのが現実です。そのしがらみの渦中にあって理想の国家を追求することは困難を極めます。また、今現在国民の幸福度が高いと評される国、あるいは反社会的組織の存在によって多くの不幸な難民を生んでいる国も、ただ現在の情勢下でそのような状態にあるのであって、たとえば百年後を保障するものはなく、理想国家のレシピを持ち合わせているわけではないと思います。事務総長の発案は、しがらみを排除した状態でそのレシピを作る試みです」
今までは台本を書く側であったので、こんなに長々と喋る機会はあまりなかった。その場で考えて話すのではなく、原稿があるのだから気楽なものだ。
肝要なのは話す速さと抑揚……今のところ聴衆は聞き入っているようだ。このままいこう。
「新設する国はゼロから……つまり国土そのものから建設する完全人工浮島の国です。広さは9万平方キロメートル、人口は概ね1千万人を予定しています。建設に要する莫大な費用は先ほど事務総長から説明がありましたとおり、原則として国民になろうとする人たちからの出資金で賄います。お預かりした出資金はIMFが当該新設国のためにのみ運用管理するものとして工事は世界各国で分担するので、世界経済を大いに活性化させるものと思います。これがまず第一の効果です」
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