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 原稿に書いてあるのでそのとおり読み上げているが、期待する最初の効果は別にある。  むしろそれが一番の狙いなのだ。曹操の北伐が戦乱の中国にもたらした効果……。  上手くいくかはここ数日でおおよその答えが出るだろう。 「そして建国後、そこに住まうすべての国民が生きるよろこびを享受できるよう、国連第七委員会に叡智を結集して統治します。単純な民主主義ではなく、資本主義でもなく、社会主義とも共産主義とも異なる新しい国家を営み、そこで培われたものを世界にフィードバックします。つまり国民だけではなく、世界の共有財産として意義ある存在になればよいと考えています。本日はお知らせまでですが、近日中に第七委員会のスタッフを選出し、具体案を皆さんにお示ししたいと思っておりますので、とりあえず本日はこの話を聞くに留めてお持ち帰りいただき、質問は後日、第七委員会の正式発足の場でお願い致します。ご静聴ありがとうございました」  会見は終わった……。  記者陣営は、あまりに突拍子もない話を聞かされたためか、すぐには突っ込みどころを見つけられずにいるようだったので、これ幸いと加藤は事務総長と共にそそくさと会見場を後にした。  後から国連本部に問合せが殺到したが、これに対しては事務総長が「第七委員会発足の会見でお尋ねください」と突っぱねるよう指示した。なかなか問い合せは止まなかったが、段取りどおり間を空けずホワイトハウスがこの計画への賛同と領海の提供を表明すると、問い合わせは一段落した。  それから数日は、世界中がざわついていた。しかし、真っ向から非難する声はあがらなかった。  難民と財政問題に喘ぐ西欧諸国は概ね好意的な反応を示し、ユーラシアの大国の片方は経済的な恩恵にすがりたいという態度を仄めかし、もう片方の大国は「検討に値する」と言ったきり沈黙した。  そして何より、それまで活発に活動していた反社会的勢力が動きを止めたのだ。……よし、狙いどおりだ。
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