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「本当ですか?……なんだか恥ずかしいもんですね、ああいうのは」
(まあ、これまでずっと裏方だったからな。これから先はどっちの道でも選べるぞ)
「私はやっぱり裏方が似合うようです」
(そんなことはないと思うがな……。まあ、案外と裏方の方が自分の思う仕事ができるというのが現実だ。それより、反応は上々じゃないか)
「ええ、そのようです。良かった」
(次の主戦場はサミットだな。急いで台本を書けよ)
「了解です」
(いや、冗談だ。お前は第七委員会の根回しに専念していい。今度の外相会議に台本は不要だ。俺のアドリブでいける)
まあ、そうかもしれない。話題は国連の発案に集中するだろうし、まだ誰にも筋は見えない。
むしろ当初から絡んでいる分だけ、麻尾がイニシアチブを握ることも可能だ。
「じゃあ、お任せでお願いします」
(分かった。まあ少し休むといい)
「ありがとうございます。では失礼します」
加藤が電話を切ると、すぐに「咲ちゃっと」にメッセージが来た。このタイミング……。ネット屋からの電話を思い出す。
“おかえりー”
“いやらしいタイミングだな。監視されているみたいだ”
“ごめんね。見えちゃうの…ひひひ”
見えちゃう……のか……。いったい美咲はこの先どうなるんだろうか。
“俺は疲れた。帰って寝る”
“わかった。…お父さん、カッコよかったよ”
“それはよかった”
“鼻毛さえ出てなければ完璧だったよ”
“なんだと”
“うそうそ、でも、再婚しちゃえばいいのに”
“どうしてそうなるんだ”
“えー、いい人だよ可奈子ちゃん。これを逃したらもうないよ、チャンス”
“大きなお世話だ。じゃあな”
加藤は携帯電話をポケットの底に押し込めた。
程よい達成感と美咲の言葉で、いつになく温かいものが加藤の胸を満たしていた。
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