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1 再会
「……あれ、おかしいな」
加藤仁は、背広の内ポケットをまさぐった。
「どうした? なに探してるんだ?」
「いや、お前に名刺を渡しておこうと思うんだが、見当たらないんだ」
「要らねえよ名刺なんか。署の警備課に聞きゃお前の肩書きなんぞすぐ分かる。なんせ高級官僚様だからな」
「高級、は余計だ。俺はそんなに偉くない。……今朝は確かにあったんだがな、名刺入れ」
「だから要らねえよ。どのみちすぐに出世するんだろ? なんたって管内に引っ越してきた瞬間から警備対象だ。うちの公安はお前の経歴から家族構成、人脈まで把握済みだろう」
「いい気分はしないな。で、その人脈とやらの中に、お前との関係も入ってるのか?」
「そんなわけねえだろ。俺なんか、出世頭のお前にとっちゃ取るに足らん人間だ」
「そんなことはない。むしろ俺の方が世話になってるんだ。……まあ、今日初めて知ったんだけどな」
「サプライズ……だったろ?」
「ああ、まさか岩崎が警察官、それも自分が住んでるところの刑事課長とはな。出世頭は岩崎、お前の方じゃないのか?」
「俺の場合は、出世魚、というんだそうだ」
「上手いな。どこの命知らずが言ったんだ?」
「先生だ。五年前のクラス会で言われた」
「なるほどな。先生からすれば、まさに出世魚だったろうな」
「ああ……中学のときは散々迷惑かけたからな」
岩崎肇は昔を懐かしむ遠い目を水割りのグラスに落とした。
その隣で加藤仁は、20年ぶりに再会したこの強面の同級生の中学時代に思いを馳せる。
目の前にいるこの男……岩崎は、中学生時代は札付きの問題児だった。
勉強嫌いと粗野な言動で日常的に教師の手を煩わせていた。
ただ陰湿なところがないため、決して嫌われ者ではなく担任からもある意味で一目置かれていた。
学級に団結があり、卒業後も定期的にクラス同窓会が行われているのも、もしかしたらこの男の影響かもしれない。
加藤はそんなことを考えた。
年の瀬に催される5年に一度の同窓会、今日は来た甲斐があった、と加藤は思う。
加藤が過去に出席したのは今から20年前……皆が20歳になる頃の1回だけだった。
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