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当時の加藤は東大生、一方の岩崎は働きながら定時制の高校に通っていた。
岩崎が真っ当に働いていること、さらには定時制の高校に入ってまで自ら勉強しているという衝撃の告白に、20年前の同窓会が大いに沸いたことを憶えている。
あのとき岩崎は何も語らず「やっぱ高校くらいは出ないとな」とおどけていたが、加藤には解っていた。
岩崎が何か確たる信念と目標を持って進んでいるのだということを。
それを成し遂げた姿が、今、目の前にいる岩崎なのだ。
思えば中学の頃の二人は奇妙な関係だった。
加藤は優等生、一方の岩崎は問題児で、ほとんど言葉を交わすことはなかったが、加藤は岩崎を信頼していたし、何故か岩崎が考えていることが解る気がしていた。
そして、岩崎の方も加藤を無条件に認めていると加藤は感じていた。
それがあながち加藤のひとりよがりではないことは、今日、ホテルでの華やかな一次会が散会したあとに岩崎がこうして加藤ひとりを連れ出し、馴染みの居酒屋に河岸を変えようと言ってきたことが物語っている。
久々に加藤に会ったことを誰より喜んだのは、この岩崎だったようだ。
「そういやお前、ガキはいるのか?」
「ん? ああ、娘がひとり……いる。中学二年だ」
「そうか、さぞかし優秀なんだろうな。うちは男が二人いるんだが手に負えん」
加藤は思わず吹き出した。
「天下の岩崎くんが手に負えないのか、そりゃ将来有望だ」
「まあ……俺だって自業自得だとは思ってる」
「だな。さんざんヤンチャしてきた報いだ」
「……で、お前の方はどうなんだ? まっすぐ育ってんのか?」
「どうなんだろうな。少なくともグレちゃいないと思う……が、転校続きだったからかな、ちょっと変わり者になっちまった」
「変わり者?」
「ああ。まず、まったく女の子らしくない。そして学校の成績に頓着がない」
「……よく分かんねえ言い回しだな、分かるように言えよ」
「理科の成績だけは一年生の時から抜群だった。好きなんだろうな。科学的な知識だけなら大学生並みだ」
「理科だけ? そんなことがあるのか?」
「だから、成績にこだわりがないんだよ。科学を学ぶなら数学も必要だし、専門書を読み解くには国語力も要る。いつか一度娘に言ったんだ。数学も大事だぞってな」
「ほう?」
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