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「なんだ? 事務総長は馬鹿じゃないってのか?」
「もちろんだ。岩崎、お前も組織人なら解るはずだ。多くの人間を束ねる組織の幹部……それも頂点が無能のはずはないだろう。そして彼らは時として批判を浴びることを承知のうえで発言をしなければならない立場にある」
「へえ……すげえな。俺なんか、狭い管内の治安に絆創膏で応急措置するだけで精一杯だ」
「それも崇高な仕事だ。そしてお前は適任だよ」
「……なあ加藤、今更だが、携帯番号を教えといてくれ」
岩崎はポケットから携帯電話を取り出して言った。
「もちろんだ」
加藤は岩崎に自分の携帯電話の番号を教え、岩崎がダイヤルする。
加藤の胸ポケットで、携帯電話が震えた。
「おお……」
「なんだ?」
「なんだか、電話帳に加藤の番号が加わっただけで賢くなった気がする」
「くだらないことを言うな」
「……なあ加藤、俺は中学の時から思ってたんだ。お前と俺が組めば、なんか面白えことができるんじゃねえかってな」
「そのセリフは25年前に聞きたかったな」
「……ああ、そうだな」
その時、加藤の携帯電話が着信を告げた。
携帯電話を手に取り、画面を見て、首をかしげてから加藤は電話に出る。
「はい、加藤です。はい、美咲は娘ですが……。え……はい。……え? はい、分かりました。……それでその……美咲は……はい、分かりました」
「なにごとだ?」
「東署からだ。美咲……俺の娘がトラックに轢かれて重体らしい。急いで中央病院に向かえだと」
「なんだと? ……中央病院だな。少し待て」
岩崎は携帯電話でどこかに電話をかける。
「岩崎だ。……刑事課長の岩崎だ。今、重傷事故の家族と一緒にいる。駅前の『田豊』に覆面を一台まわせ……緊走でだ。いいな」
電話を切った岩崎が加藤に言う。
「車を手配した。緊急走行で中央病院まで行く。店の前で待つぞ」
「……いいのか?」
「人の心配してる場合じゃねえだろ」
「……すまない」
そんなやり取りをしているうちに、非日常の訪れを告げるサイレンが近づいてきた。
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