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落書きをされ、所々破られている教科書を鞄に詰め、帰りの挨拶とともに、私は教室を出た。
教室に残っているとどうなるかわからない。
少し早歩きになりながら、私はため息をついた。
私が寄ったのは、町の外れにある土手。
初夏の心地よい風が私の頬を撫でる。
ここに来ると嫌なことを忘れられる。
耳に聞こえるのは、川のせせらぎと鳥の声だけ。
私はそっと目をつむり、小さく口角を上げる。
その時、突然突風が土手の上を通った。
木々が軋む音がする。
私は乱れる髪を必死に押さえつけ、なんとか視界を開く。
私の視界の先に広がる光景は、先ほどまでいた土手ではなく、ほのかに梅の香りがする里だった。
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