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「……え?」
突然の出来事に一瞬、声が出なかった。
来たことはない筈だが、どこか懐かしく感じられる。
先ほどとは違う、柔らかい風に細めた目に、ふと人影が映る。
「……誰?」
恐る恐る近づいてみる。
「ど、どなたですか?」
人影に向かい、消え入りそうな声で尋ねる。
くすくすと笑うその人影は、少女のようであった。
「其方が御母衣結衣か?」
……
なぜ、この人は私の名前を知っているの?
最初に浮かんだのは、そんな疑問だった。
「別に怪しい者ではない。妾は其方を迎えに来ただけじゃ」
怪訝な顔をした私を見て少女はふっと笑った。
「妾の名は、鈴。鈴の付喪神じゃ」
付喪神?
「先ほども申した様に、其方を迎えに来た」
迎えに来た?
一体どこに?
「まあ、此処で話す事も無い。ついて参れ」
____知らない人について行ってはいけませんよ。
不意に、小学生の頃、教師に言われた言葉を思い出し、躊躇する私に彼女は、其方の力が必要だ、と言った。
その表情は、先ほどとは打って変わり、私の目を真っ直ぐに見つめ、真剣だった。
ふっと微笑み、私に背を向けると、ついて来いと言う様に一度振り返り、歩き出した。
一瞬迷ったが、彼女の瞳の色を思い出し、あの顔は、嘘を言っている顔ではないと判断し後を追った。
少し小走りをし、鈴の横を歩いた。
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