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「――嫌では、ないです」
雪穂にされる肯定は、冬夜にとって何物にも代え難い救済だ。初めて会ったときのそれを忘れたことはないし、何故、雪穂は自分に対してこんなに優しいのだろうと考える。
理由は、自分と同じであればいい。冬夜は願う。まだ完全なる承諾はもらえていない。それは、怯んだように見えた雪穂を逃すまいと、宣言してしまった自分の言葉のせいでもあるのだけど……一度決壊した我慢は辛いものだと冬夜は少しばかり後悔した。けれどこんなことに縛られている今の自分は、例えそれを口にしなくとも、
好きだと、言っているようなものだ。
「良かった。けれど、そうやって考えて下さい。性格が嫌いで我慢ならないとか、おじさんだから嫌だとか。そういう僕自身を理由にしてくれるなら、なんとか納得出来るよう、頑張ります。多分」
雪穂は、冬夜のこの言葉が最初から嫌いだった。こちらは露ほども思っていないのに、そっちがそんな壁をつくっておいてどうやって判断しろというのか。それにもう、雪穂は冬夜を――。
「おっ、おじさんじゃありませんっ」
昔から腹の立つところだけ否定をすると、冬夜はとても顔を綻ばせるものだから、雪穂は喜びで潤む目を伏せて自分の態度を恥じた。もう決定してしまった気持ちを言い出すことはまだ雪穂には出来ない。けれど、
こんなの……好きだと言っているようなものじゃない。
「これからは、年に一度だけでなく、僕にもっと、雪穂さんと過ごす時間をくれますか?」
もうわかっていると思う。けれど、きちんと言質を取るまで逃がしてくれない冬夜はやはり凝り固まっていて。なかなか頷けない雪穂を幸せそうに見つめるところは意地悪で。
そんな冬夜に、さらに愛おしさを感じてしまった雪穂は、小さく、はいと頷いた。
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