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――――……
一月一日。
雪穂は祖母の墓の前にしゃがみ、誕生日を一緒に祝えなかったこと、命日に訪れられなかったことを詫びた。
いつの間にか年が明けていて、慌てて向かった、新たな一年のほんの始まりのとき。
バースデーケーキの蝋燭に火が灯り、雪降り凍える墓地の中、祖母の墓の前だけ暖かい光景がある。
雪穂の隣には、何かを懸命に祖母に伝えている、目を閉じた冬夜の姿があった。長い足を相変わらず綺麗な所作で曲げたあと、安定感はそのままにいる。雪穂は、それにまた密かに目を奪われ、我に返ってからは、何故か祖母に弁解してしまった。笑われているような気がしたのだ。
十分ほど前には、雪穂は冬夜に頭を下げ、冬夜の妻が眠る墓に手を合わさせてもらった。
ごめんなさい、は違う気がした。けれど他の言葉も出てこず、雪穂は無言のまま、目を開けたら冬夜が心配しているくらいには、何かを形作ろうとしていた。そうして、来年までの宿題にさせて下さいと延長を申し出た。心に散らばった感情の欠片の中に恐れていたようなものはなく、雪穂は二度目の安堵をする。
結論だけ先に出してしまったから、根と実を繋ぐ枝はずいぶんと頼りない。これからも、下手したらずっと揺れ続けるのだろうと、雪穂はもう仕様となってしまった後ろ向きな思考で隣の冬夜を見つめ続けた。
祖母との会話がおわったらしい冬夜が視線に直ぐ様気付き、雪穂は自重を誓う。
「何を、祖母と話してたんですか?」
「秘密です」
「そう、ですよね。――私もです」
雪穂の誕生日を祝ったあと、例年通りに墓に線香を置き、最後にもう一度手を合わせた。箱に仕舞うバースデーケーキには、ふたすくいぶんの生クリームのクレーターが掘られていた。
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