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毎日同じ時間に叩かれるドア ひょっこり顔を出すのは 白衣を着た彼 「今日も順調だね」 彼はそう言って 瞳を細めながら嬉しそうに笑う 順調の先にあるのは別れ だから嬉しいけれど嬉しくない 毎日窓から眺める桜の木 そよそよと揺れるのを見て 首を傾げる彼 「今日もまだ蕾だね」 彼はそう言って 残念そうに眉を下げる 開花しそうでなかなかしないそれ 早く心からの笑顔が見たい 突然叩かれたドア 少し着飾った私を見て 目を見開いた彼 「今日でさよならだね」 彼はそう言って 白い歯を見せて笑う けれど私は笑えなかった さよならしたらもう会えないから 白い空間の中で 毎日会える時間が とても幸せだった 「またくればいいよ」 なんて医者の彼が言えるわけがない だから今度は私から声をかけた 「満開の日に桜の木の下で」 彼の瞳はみるみる大きくなる けれどすぐに細められて 彼は小さく頷いた
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