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孝太の置かれた状況を考えると、自分よりずっと不安なのはわかっている。
それでも、成美は泣き出してしまった。
汗を拭くために借りたタオルを取って、顔を隠した。
「泣きな」
そう言われても涙はそう簡単には止まらない。
去年、ほんの少しでも会っていれば、孝太がどう過ごしていたか話してあげられたかもしれなかった。
成美は、孝太が忘れてしまった時期のことを何も知らない。
「ごめんね」
「なんで謝るが?」
「去年も会いにきたら良かった」
「去年のことは憶えとらんきに、わからんけどにゃあ、そん前は、見かけたに俺も声をかけれんで」
成美は顔をあげて、孝太を見た。
「高一の時?」
孝太が頷いた。
「会いたかったのに……」
成美はまた顔を伏せて泣き始めた。
「泣きなゆうたやか」
孝太が、背中を優しくたたいた。
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