密偵

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「そんなのあんたが知る必要ないよ」 突如、女が水路の底から光るものを(つか)み上げ、モタイに襲い掛かった。 (短刀! くそっ) 不意を突かれたモタイは完全に奇襲を許し、脾腹(ひばら)を深々とえぐられた。 「ぐえっ!」 「だってあんた、ここで死ぬもん」 含み笑いで女が言う。刺し込まれた短刀を女がぐりぐりと捻る度、熱い血がゴボゴボと食道を(さかのぼ)り、堪らずモタイは血を吐いた。女の顔が見えた。 「貴様、さっきの酌婦…!」 ヒデモトの部屋でモタイに酌をした女。モタイの耳元に唇を近付け、囁くように言った。 「ふふっ、あんた、エミシだろ」 凄みのある艶笑(えんしょう)を浮かべる女を、死力を奮って引き剥がし、モタイは水路に落ちた。
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