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「フソウ」と呼ばれる列島があった。その名は「東の果てにある大樹」を意味し、文字通り極東に位置する。島の中央を占める「イカルガ朝」が最大勢力であり、「エミシ」はイカルガ朝の北東に割拠する地方勢力である。
エミシは一年の半分が雪に被われる極寒の地であるに加え、山の多い地勢であり、それゆえ未だに飢饉も起こる事のある貧しい国であった。領府はツガルに置かれ、王であるアラハバキはいくつかの部族で構成されたエミシを、武とカリスマ性によって束ねており、イカルガ朝とは長らく険悪な関係にある。
「やはりイカルガの手の者とみるべきでしょうな」
三人の男が板の間の炉を囲み、暖をとりながら、今朝がた起こった襲撃に関して話している。最初に口火を切ったのは、その中では一番若年と思われる痩せた男だった。
「マゴロク様を亡き者にする事で、我らエミシの武を削ごうという腹か」
エミシは唯一豊富に産出される良質の鉄鉱石、およびそれを精製して造られる鉄器を、外つ国との主要交易品として外貨を得ているが、逆を言えばそれ以外にこれといった交易品もない。
そんな小国が滅ぼされず、また属国にもされずに独立を保てている理由の一つを、このマゴロクと呼ばれた老翁の束ねる一族が担っていた。
一族はある山の管理を任されている。本当の名は「オソレ山」であるが、民からは畏敬を込めて、ただ「御山」と呼ばれる事が多い。そして世界で唯一、そのオソレ山でしか産出が確認されていない鉱石が、「御石」と尊称される「タタラ鉱」である。
タタラ鉱を精製して出来る金属「ヒヒイロカネ」は、武具、それも剣を鍛える為にのみ用いられる。タタラ鉱は瘴気を含み、加熱、融解する際に空気中に放出される。ゆえにヒヒイロカネの剣を打つ刀匠はその瘴気に耐性を持つ一族に限られる。マゴロクを長とする鍛冶集団、「セキ」の一族である。
だがそのセキ一族ですら、タタラ鉱の剣は五本も打てば眼や皮膚を蝕まれ、またやがては「タタラ様の声」と呼ばれる幻聴を聴くようになり、そのほとんどが廃人となる。廃人となった者は、タタラ様が呼んでいると感じるようになり、声に誘われるようにオソレ山へと向かい、消息不明となる。
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