6人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういうことならば、いただきます」
軍手を脱いで、タオルで手を拭く男。そうしてすぐ握り飯に手を伸ばす。
「あの、顔!」
「顔?」
タキの言葉に男は手を止める。
「泥だらけ・・・・」
男は自分の顔に手を当てて擦り、その手の平を眺める。
「ああ、ほんとだ」
タオルを掴んで顔を擦ると、白い生地が茶色く汚れた。
「すみません、僕はどこか無頓着なところがあって・・・・抜けているというか・・・・・・」
「完璧な人間などどこにもいませんよ。さあさ、食べて下さい」
それをわざとやっているようにはタキには見えなかった。そんな人間が人を騙そうとすれば簡単に分かる。
何が目的かはわからないが、とりあえずは様子を見ることにした。
「いただきます・・・・」
握り飯を大胆に掴んでそれを頬張る。数回噛み締めるように口を動かし、男は突然に大粒の涙を流した。
「どうしたんです?」
「・・・・懐かしい・・・・・・」
「懐かしい?」
「いえ・・・・・・お袋の味というか、その・・・・・・すみません」
左手で無骨に顔を拭って、右手の握り飯をかじる。
最初のコメントを投稿しよう!