第一章

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「そういうことならば、いただきます」  軍手を脱いで、タオルで手を拭く男。そうしてすぐ握り飯に手を伸ばす。 「あの、顔!」 「顔?」  タキの言葉に男は手を止める。 「泥だらけ・・・・」  男は自分の顔に手を当てて擦り、その手の平を眺める。 「ああ、ほんとだ」  タオルを掴んで顔を擦ると、白い生地が茶色く汚れた。 「すみません、僕はどこか無頓着なところがあって・・・・抜けているというか・・・・・・」 「完璧な人間などどこにもいませんよ。さあさ、食べて下さい」  それをわざとやっているようにはタキには見えなかった。そんな人間が人を騙そうとすれば簡単に分かる。  何が目的かはわからないが、とりあえずは様子を見ることにした。 「いただきます・・・・」  握り飯を大胆に掴んでそれを頬張る。数回噛み締めるように口を動かし、男は突然に大粒の涙を流した。 「どうしたんです?」 「・・・・懐かしい・・・・・・」 「懐かしい?」 「いえ・・・・・・お袋の味というか、その・・・・・・すみません」  左手で無骨に顔を拭って、右手の握り飯をかじる。
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