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『いえ・・・・・・それは、困ります』
『ならば、答えは出ているだろう?もう金輪際タキに会わんでくれ』
『待って下さい!』
父親の敏夫が立ち上がると、その横にいた花柄の着物を着ていた母親のフミも立ち、軽く榮治にお辞儀をして去って行った。
それを障子の隙間から覗く、若い頃のタキ。おさげ髪で丸衿のブラウスにもんぺを着ている。
肩を落として家を出て行く榮治の後を追うタキ。
『榮治さん!』
それに振り返り、彼は消沈し切った顔をタキに向ける。
『すまない、タキちゃん。僕はもう、君に会えない』
『そんなこと・・・・・・お父さんは結核が怖いだけよ』
『でも、お父さんの言うことは正しい。僕のせいで、タキちゃんやご両親に迷惑をかけるわけにはいかないからね』
『榮治さん・・・・・・』
『タキちゃんにはもっと相応しい人がいると思うんだ、こんな病気の僕よりも・・・・・・』
彼は少し潤んだ目を伏せて続けた。
『だからタキちゃん、もう、僕のことは忘れてくれ』
それだけ言って彼は走って行った。
『榮治さん!』
タキの呼び止めに彼が振り向くことはなかった。
夕焼けの赤い空に染まる彼の背中をただ見つめていた。
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