第一章

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「今朝、仲央区に住む富岡タキさん(89)の自宅で男女の遺体が発見されました。女性の遺体は富岡タキさん本人と見ていますが、男性の遺体は身元不明で、周囲に血痕が残っていることから、何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとして、警察は調べを進めています。富岡さんは一人暮らしで、正月に娘が訪れた際に遺体を発見し、通報したということです。警察の話では遺体は数ヶ月経っていると見られ、その間に出入りしていた人物はなく、男の身元を調べている状況です」  カーラジオから聞こえてくるニュースに耳を傾けていた、ワイシャツ姿の刑事が助手席に座る。  運転していたグレーのスーツを着た年配の男は静かに息を吐いた。しばらくしてウィンカーを出して左に曲がり、少し行ったところで停めた。 「田辺、お前は先に中に入って聞いて来い」 「はい」  今年で30歳になる田辺は車から降りて、目の前の建物内に入って行った。 「すみません、警察ですが・・・・富岡タキさんについてお伺いしたいのですが」  警察手帳を一瞬だけ見せ、住民センターとなっている一階の受付の女性にそう声かけたが、後ろのソファーに座っていた高齢者の女性が答えた。 「富岡さんは、ホームヘルパーの男に殺されたんだよ!」  彼は振り返り、そこにいた白髪の女性に視線を合わせる。 「富岡タキさんをご存知なんですか?」 「知ってるも何も、老人クラブで毎回会ってたからね・・・・・・富岡さんの姿が見えなくなる少し前に会った時に話してたんだよ」 「話してたって、何を?」  田辺は身を屈めて彼女に視線を合わせる。
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