第一章

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「あ。お庭の草が伸びていますね?私、草むしりします」  彼はどこからか軍手を取り出し、玄関横からちょっとしたスペースの中庭へ入って行く。 「あ、全部はむしらないで!」  彼の背中にそう声をかけるタキ。 「鈴虫の声が聞けなくなるから・・・・」  振り返った男にそう続けた。それに彼は微笑む。 「わかりました。伸び切っている真ん中の方を抜いて、周りは残しておきますね」  それだけ言うと、男は黙々と草むしりを始めた。  夏よりかは暑さも納まってきたが、それでも晴れた日はまだ汗ばむほどの気温はあった。 「ゴミ袋ここに置いておくので、使って下さい」  玄関掃除を終えて、仏壇のある部屋からタキは縁側にゴミ袋を置き、男にそう声をかけた。 「ああ、ありがとうございます」  振り返って男は額の汗を拭くと、軍手の土が顔について汚れた。 「・・・・少し休んだらどうです?」 「いえ、大丈夫です。あ、この辺の花壇はどうします?」  男の指差す方を見ると、数年前までやっていた家庭菜園の残骸があった。 「全部引っこ抜いて構わないです。もう、それの面倒を見るほどの体力もないですから」 「わかりました。また、わからないことがあったらお伺いします」  そう言って男はまた作業を始める。
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