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「私は朝ご飯を食べますけど・・・・・・小宮さんは?」
「ああ、お構いなく。これが終わったらどこかで食べてきますので」
少しだけ後ろを振り向いて彼はそう話す。それに頷いてタキは台所に向かった。
男にもらった名刺を見直すが、こんな物はいくらでも作れる時代だろう、とタキは思った。
高齢者を狙った新手の泥棒かもしれない。親切なふりをして年寄りを騙そうとする輩は沢山いる。
昨日の炊き込みご飯の残りを口にしながら、そんなことをタキは考えていた。
食べ終わってすぐ、彼の様子を見に仏壇のある部屋に戻ってはみたが、彼は背を向けたまま懸命に草を抜く。
「はあ、ああ・・・・・・」
握力がなくなってきたのか、彼は時々手をグーパーして手首を振る。
「少し休んで下さい。今、お茶持ってきますから」
タキは見兼ねてそう声をかけた。
「はあ、ああ。すみません・・・・・・」
彼は泥だらけの顔をこちらに向け、軽くお辞儀をする。
冷えた麦茶と濡らしたタオル、炊き込みご飯を握ったものをおぼんに乗せて、彼の元に持って行った。
「さあさ、どうぞ」
曲げていた腰を伸ばし、数回叩いて男は振り向いた。
「ああ、申し訳ない」
「残り物ですけれど、よかったら食べて下さい」
男はこちらに近づいておぼんの上に乗った握り飯に目を向けた。
「ああ、これじゃ、僕が世話してもらってるようなもんじゃないですか・・・・」
「一人暮らしだと炊いたご飯も食べ切れなくて。捨ててるんです、いつも。勿体ないから食べて下さい」
タキの言葉に男は軽くお辞儀をした。
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