8人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
「お邪魔しました」
安住は幸に軽く一礼し、逃げるよう退散した。
途中、商店街で聞き込みもしてはみたが特に有力な情報もなく、東京に戻った。
自分が刑事まがいなことをしなくとも、近々警察が来るだろうと分かっていた。
ピルルルルッ
携帯電話が鳴って出ると相手は倉本だった。路肩に車を止めて電話に出た。
『よう、安住。なんか進展は?』
「ないことも・・・・ない」
『じゃあ、情報交換だ』
声を弾ませる倉本の声が聞こえる。本当は話したくて仕方がないといった様子だ。
『まずは俺からな。直也の弟・・・・・・弘也は昔から精神科に通ってるみたいで、色々やられてるらしい。警察もかなり疑ったみたいだが、残念ながら指紋が違うらしくて、家に帰されたって話』
「ふーん、そうか」
そう言いながら安住は煙草を取り出し、火をつけて一服した。
『そっちは?』
「こっちは直也の両親の家に行ってきて今帰ってきたとこ」
『両親の家?・・・・・・で、何か分かったのか?』
それに安住は口元を少し綻ばせた。
「直也の交友関係を調べてたら保険金が直也に掛けられてて、その受取人が両親でさ。警察がそっちを疑う前にと思って行ってはみたが、あれは白だな」
『どうして、お前がそんなこと分かるんだよ』
「70は過ぎてる両親があんな人里離れた山ん中から都に出てくるとも思えないし、住所も知らないってさ。車は軽トラ一台。一番近い商店街に現れることもほとんどない夫婦で、最近は一ヶ月前にトタン板を買いにきた時に見たっきり。・・・・・・それに夫婦共に痩せていて、例え二人で襲っても直也に勝てないくらいのご老人だ」
『じゃあ、なんで保険金の受取人が両親なんだよ』
「さあな・・・・・・せめてもの罪滅ぼしだったんじゃないのか?」
少しの間があり、倉本の声がした。
最初のコメントを投稿しよう!