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そこに居るのは、いつもの冷静沈着な医師、奏眞ではなく、子の痛みに惑うただの父親だった。
不器用で、愛を伝えられない奏眞。
誤解から息子に離れて行かれても、言い訳ひとつ言えやしない……。
そんな奏眞を四ノ宮はずっとそばで見てきた。今の奏眞の胸中を想うと、四ノ宮には掛ける言葉など見当たらなかった。
「お預かりします」
四ノ宮は短くそれだけを伝えた。
ふと、四ノ宮の頭に不安がよぎる。
催淫剤か……
「あの、非常に言いにくいのですが…処置に当たって、ひとつ確認したい事が…」
この状況下で、口にするのは躊躇われた。
二の句が継げない四ノ宮を察し、奏眞が助け船を出す。
「…ああ、催淫剤の処置だな。構わないよすべて任す……君ならばと、お願いしたのだから」
奏眞医師のお許しが出て、四ノ宮はほっと胸を撫で下ろす。
この際、自分の心の痛みなど後まわしだ。
「承諾して頂き有難う御座います。今夜はこちらに泊めさせて頂きますので、申し訳ありませんが、奏眞先生はお帰りを」
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