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自分の表情を決して悟られまいと、四ノ宮は丁寧過ぎるほどに深く一礼をする。
向かう奏眞医師は無言でうなづき、その場を後にした。
傷む左胸に手を当て、切ない表情で、四ノ宮は去りゆく奏眞の背中を見送っていた。
「奏眞先生、貴方は ひどい方だ。わたしの気持ちを知りつつ、わたしが貴方の頼みを断れないのも承知で、それでもわたしに梛音さんを託すのですね……」
四ノ宮の呟きに応えるものは、誰もおらず、その言の葉は闇に呑まれるばかりだった。
「さあ、いつまでもたもたしてるのです?貴方は医者ですよっ」
自らを鼓舞するため、四ノ宮は自らの頬を手のひらで軽くうつ。そして足早に患者のもとへと向かって行った。
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