無重力の砂時計

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「会長は兄ちゃんに手を出したんです。自分の息子にですよ!それが許せない。雪兎さんが大事なら他にちょっかい出すなよ。二度と兄ちゃんに触れるなっ!」 「虎太郎、本当なの?」 「いっ・・・・いや、その・・・・」 「最低っ!」 雪兎は会長の襟を掴んで激怒した。 「いや、これには訳が・・・・」 「俺もそのわけ聴きたいですね」 ニヤリと嗤って雪兎の後押しに回る。こんな時じゃないと本音を聞きださせない。動揺している雷文虎太郎を責めるのもいい気分だ。 「アイツは自分の気持ちに鈍感だからさ・・・・・・気づかせようと思っただけだ」 「それがなんで兄と寝ることになるんですか?」 「寝てねぇし・・・・少しは触ったけど・・・・」 「じゃあ、本気で犯ろうとは思ってなかったと?」 「まぁ・・・・な・・・・」 忌々しそうな顔をしてこちらを見ながら睨みつけてくる。自分の腹の中を言わされているのはきっと不愉快なのだろう。 「これからは俺がぴったりついてはなれませんから・・・・兄ちゃんに指一本触れさせない」 「隙があればヤルって言ってんだろ?」 「虎太郎っ!」 雪兎が割って入ったが優しく手を握って唇で口を塞いだ。 そのままなにも云えなくなって黙ってしまった恋人を撫でながら、こちらに向き直った。 「油断をするな。中にも外にも敵はいる。ひと時たりとも桂斗を離すな」 「アンタに言われなくてもそうするよっ!!」 そう啖呵を切り、兄のスマホを握って部屋を飛び出した。 部屋窓は嫌いな東京の摩天楼を映し出していた。 雪兎はダウンライトに切り替えて、ソファで頭を抱える虎太郎の隣に座った。 もうかしこまったスーツを脱いで風呂にも入ったようで、濡れた髪を拭きながら、Tシャツにひざ丈のサッカーパンツのようなラフな格好でテーブルに置いてあるワインに手を伸ばした。 「おい、あんまり飲むなよ。これから俺を癒してくれるんだろ?」 すると、いきなり頬を両手で横に思いっ切り引っ張った。 「痛ってぇ」 「そんな事ばっかり言ってさ。癒してあげてもいいけどちゃんと事の詳細ぐらい話せよな。僕ばっかり蚊帳の外っていうのはなんだか納得いかない」 「わかったよ。雪兎には何でも言う」 綺麗な顔が近づいてきて唇をついばんだ。こんな事されると弱いことを虎太郎は十分知っているのだ。 「ズルいよ」 「ズルいって何が・・・・」 「心配させないように何にも話さないのは勘弁してよ」 「ああ、もちろん」
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