561人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
「会長は兄ちゃんに手を出したんです。自分の息子にですよ!それが許せない。雪兎さんが大事なら他にちょっかい出すなよ。二度と兄ちゃんに触れるなっ!」
「虎太郎、本当なの?」
「いっ・・・・いや、その・・・・」
「最低っ!」
雪兎は会長の襟を掴んで激怒した。
「いや、これには訳が・・・・」
「俺もそのわけ聴きたいですね」
ニヤリと嗤って雪兎の後押しに回る。こんな時じゃないと本音を聞きださせない。動揺している雷文虎太郎を責めるのもいい気分だ。
「アイツは自分の気持ちに鈍感だからさ・・・・・・気づかせようと思っただけだ」
「それがなんで兄と寝ることになるんですか?」
「寝てねぇし・・・・少しは触ったけど・・・・」
「じゃあ、本気で犯ろうとは思ってなかったと?」
「まぁ・・・・な・・・・」
忌々しそうな顔をしてこちらを見ながら睨みつけてくる。自分の腹の中を言わされているのはきっと不愉快なのだろう。
「これからは俺がぴったりついてはなれませんから・・・・兄ちゃんに指一本触れさせない」
「隙があればヤルって言ってんだろ?」
「虎太郎っ!」
雪兎が割って入ったが優しく手を握って唇で口を塞いだ。
そのままなにも云えなくなって黙ってしまった恋人を撫でながら、こちらに向き直った。
「油断をするな。中にも外にも敵はいる。ひと時たりとも桂斗を離すな」
「アンタに言われなくてもそうするよっ!!」
そう啖呵を切り、兄のスマホを握って部屋を飛び出した。
部屋窓は嫌いな東京の摩天楼を映し出していた。
雪兎はダウンライトに切り替えて、ソファで頭を抱える虎太郎の隣に座った。
もうかしこまったスーツを脱いで風呂にも入ったようで、濡れた髪を拭きながら、Tシャツにひざ丈のサッカーパンツのようなラフな格好でテーブルに置いてあるワインに手を伸ばした。
「おい、あんまり飲むなよ。これから俺を癒してくれるんだろ?」
すると、いきなり頬を両手で横に思いっ切り引っ張った。
「痛ってぇ」
「そんな事ばっかり言ってさ。癒してあげてもいいけどちゃんと事の詳細ぐらい話せよな。僕ばっかり蚊帳の外っていうのはなんだか納得いかない」
「わかったよ。雪兎には何でも言う」
綺麗な顔が近づいてきて唇をついばんだ。こんな事されると弱いことを虎太郎は十分知っているのだ。
「ズルいよ」
「ズルいって何が・・・・」
「心配させないように何にも話さないのは勘弁してよ」
「ああ、もちろん」
最初のコメントを投稿しよう!