無重力の砂時計

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家に帰ると兄はもう自宅に戻っていた。 会長に言われたことがまだ心に残って、イライラしていたのが顔に出ていたのかもしれない。見上げた兄はすぐにこちらの苛立ちに気づいたようだ。 「どうした?オヤジにまたなんか言われたのか」 「あの人に会ったってなんでわかるの?」 「お前呼び出すから携帯おいていけって言われて・・・・オヤジだって お前の電話番号位知ってるはずなのにさ。携帯の履歴消えちまったからとかなんとか・・・・」 「携帯なんて簡単に渡すなよ。利用されるかもしれないだろ」 「オヤジに?・・・・そうか以後気をつけるよ」 「ほら、携帯取り返してやったぞ」 「ああ、ごめん」 GPSで捕捉していることはわかっていなかったみたいだ。そこは会長も嘘をついていない。それでも腹は収まらない。 「なんか話があったのか?」 「話?一方的に俺が怒鳴ってきただけ。もう会長と二人っきりになるなよ」 「この間のことまだ言っているのか」 「ああ、あれはムカついた」 「・・・・・・・・・」 「二度と他の奴に触れさせるなよ。ガード甘いんじゃないか?」 怒りに任せてそんな言葉を吐き捨てると、目を伏せて静かに「ごめん」と言われてはっとする。 「・・・・・ちょっと言い過ぎた。ごめん、兄ちゃん」 「いや、本当の事だし・・・・・相手が雷文虎太郎だってこと忘れてた俺が悪い」 そんな殊勝な言葉を聞くと責めた自分が辛くなる。 思わず引き寄せて抱きしめた。 「理玖・・・・・」 「ごめん、俺が悪かったんだよ。ずっと一緒にいて守るって約束したのに、兄ちゃんばっかり責めて・・・・俺、学校やめたい」 「は?なんでそうなる」 「ずっと一緒にいれないだろ?俺が学校に行っている間、守れないから」 「それとこれとは話が違う。俺は自分の身は自分で守れるし、ボディガードだっていっぱいついてくれている」 「でも、会長には舎弟たちも手出しはできないし、兄ちゃんだって油断したろ」 「もうしないから・・・・・なんでそんなこと言うんだよ」 「だって・・・・誰にも・・・・兄ちゃんを傷つけられたくないんだ」 兄は抱き締めた腕を振り払って窓のカーテンを開け外を見た。 ここは東京だが喧騒とは程遠い静けさだ。先々代が築いたという日本庭園がよく見える。 「お前、俺に縛られることはないんだぞ」 「は?何言ってんの?」 「今日、会合の後にお前の足抜けをオヤジに打診した」 その言葉に目の前が真っ白になる思いがした。
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