無重力の砂時計

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「足抜けって・・・・俺をここから追い出そうと思ってんの?」 「お前は他に生きる道がある。一人でやっていけるはずだ。愛美だって、千菜美さんだってお前に極道になってほしいなんて思ってないはずだ」 「なに言ってんだよ。死んだ人間がどう思うかなんて関係ないだろ?俺が一緒にいるのが嫌なのか?」 「・・・・・・・・・」 「毎晩、気持ちのない男と一緒に寝るのは嫌だってことだろ?ならそう云えばいいじゃないか。契約したのはアンタだろ?契約解除すればいい!」 兄は初めて動揺するようなそぶりを見せた。自分で云っといてなんで困った顔をするんだよっ! 「俺は出ていく気なんかさらさらないし、契約解除しない限りこの部屋に居続けてアンタを抱くからな」 「・・・・・・俺とは・・・・関わらない方が・・・・お前の・・・・ためだ」 切れ切れに言葉を紡ぎだす唇は少し震えている。 なんでそんな切ないような顔をして・・・・それでも最大極道の組長か? 「俺のために芝居してたのか?抱かれたのも、俺が憐れだからなんだろ?それが辛くなったのか?バカだよ・・・・・兄ちゃんは。極道らしく俺なんか切ればよかったのにさ」 涙が勝手に溢れてきた。でも極道の男が泣くわけにいかない。目を閉じて必死にこらえる。 「ごめん・・・悪かった」 「契約解除してほしいんだろ?そう云えよ」 「・・・・・・ごめん」 「謝んなくていいから、言えよ」 「契約・・・・解除だ」 「うん・・・・・くっ・・・・」 思わず堪えてた涙が溢れて堕ちた。そのまま兄に近づいて抱きしめる。もう二度と味わえない温もりを噛み締めるようにぎゅっと・・・・。 「理玖、ごめんな」 「んなこと・・・・言うなよ」 途切れ途切れにかすれた声で答えると優しく頭を撫でられた。 優しすぎるんだよ、アンタは。弟を慰めようとしているんだろうけれど、それじゃ逆効果だ・・・・未練が残っちまう。 ふと顔が近くなって唇が付きそうになった。 愛しい人の顔が真っ赤になってふいと後ろを向いてしまう。今何をしようとしたのか。 「俺に出ていってほしい?」 「また、マンション借りてやるから・・・・・」 「いいよ。またモデルやれば稼げるし、アパートでも借りる。会長は俺を足抜けさせるつもりなのか?指取られたら仕事できないんだけど・・・・・」 「それは俺から何とかするから・・・・・大丈夫だ」 「本気なんだな」
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