無重力の砂時計

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「学校だけは出ろ。将来役に立つから」 「極道っぽくない言い方だな」 「この世界の人間でなくなるから言うんだ」 「それで言ってたわけか・・・・・グレもせずに忠実に家を継いだアンタらしいよ」 「そのおかげでカリスマのような極道には程遠い」 「雷文虎太郎みたいな?」 「俺はあんなにぶっ飛んだ人間にはなれない」 「兄ちゃんらしいよ」 身の置き所のない静寂が二人を包みこむ。俺は耐え切れなくなってそのまま家を出た。 七生の家に転がり込んで学校に通うことにする。ヤツには悪いから家を早く探さなければならない。 「りっくん、本当に雷文組に帰らないんですか?」 「だって・・・・兄ちゃんに破門されたからなぁ~」 「なんだか・・・・・淋しいです」 「俺が雷文を出ても俺と友達でいてくれるか?」 「友達なんてもったいない。りっくんはあくまでりっくんですから・・・・・」 「なんだそれ・・・・・ハハハ」 自分も淋しい。つるんでいた住み込みの舎弟たちとも会えない。 自分の人生だった一部を引き剥がされた気がする。 何と言ってもあの人に会えないことが・・・・・・・それが一番つらい。 「忘れなきゃなんねぇのかな・・・・・・」 ぼそりと呟くと、七生が振り返った。 「えっ?なんですか?」 「なんでもねぇ。家さがして早く出ていくからな」 「いいんですよ。ゆっくりしてください」 極道なんてやっているが、ウチの舎弟たちは根がいい奴ばかりだ。コイツ等ともお別れなんて・・・・・世界で一人取り残された気がする。 もう・・・・・二度と戻れないんだ。 鞄一つで家を出て一人で生きることになったのは18歳、高校三年の夏だった。 理玖の出て行った部屋に桂斗はひとり佇んでいた。 「これで・・・・・良かったよな」 本棚に立てかけた写真に話しかける。 「浩司・・・・・・俺、お前の事裏切っているかもしれない」 佐竹が自分の盾になって凶弾に倒れた時、お前は『これからは・・・・理玖がお傍に・・・・』といった。でももう側には置けなくなったんだ。 お前はノンケだったのに俺が押して押して押し負けて・・・・・結局オヤジの謀で結婚したようなものだった。 だから佐竹に対しては申し訳ない想いがある。 自分を無理して愛してくれているんじゃないかと遠慮してい居たと言っていい。 だから俺は佐竹に身も心も一生奉げると誓った。 ・・・・それが今は揺らいでいる。
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