無重力の砂時計

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「二度と浩司以外のパートナーを持たないと決めたのに・・・・お前が死んで一年経たないうちに・・・・・理玖に躰を預けるようなことして・・・・最悪だよな、俺」 写真の男はこちらを見てくれない。 ほとほと愛想を尽かしているのだろう。 「一緒に居たら・・・・俺がダメになる。だから追い出した。これでよかったよな」 静まり返った部屋からは答えが返って来るよしもなく、桂斗は一人蹲った。 高校も夏休み後からは自習時間が多く、行っても仕方ないのでモデル業に専念していた。 今日も東京の某スタジオで早朝から撮影だ。 「理玖くん、今度これお願い」 メイク室はスタッフが虫のように右往左往して、撮影なんて全く優雅でもなんでもない。 髪はいいようにセットされ下は下着だけの格好でメイクさんはパタパタと粉をはたく。 「理玖、次は32番の服ね」 「了解」 編集者、カメラマン、メイク、照明、その他もろもろ・・・・・自分は中心に立って女王蜂になっているだけだ。 「あれ?こんなとこにタトゥあったっけ」 「ん?この前入れた」 「上半身はやめてね、カッコいいって流行ってるけど、一生もんだからさ、よく考えなよ」 「仕事に影響しないようにしてるよ」 居れたのは右太腿脇に英語で”KEITO”と入っている。 昔の飾り英字なのでパッと見、読めるものではないが撮影で写ってもいいかなとも思っている。 何かのグラビアをあの人が見てくれたら・・・・気が付いてほしいから。 だからって連れ戻しに来てくれるとは思っていないし期待もしていない。 『あの人に会いたい。今どうしているんだろう』 家を出てからもう3か月。 10畳一間のワンルームを借りて、学校とモデルの仕事をしている。 極道からは足抜けした形になっているらしい。舎弟たちも一切来なくなった。 もし知っている奴が襲ってきたとしても、アメリカ軍仕込みの必殺拳もあるし簡単にはやられないだろうとは思う。 ガキの頃から騒がしい男臭い環境にいたから、まだこのしんとした狭いアパートに慣れていないのが現状だ。 仕事が終わってパイプベッドに寝転がると思い出すのは、組の事、舎弟たち、そして凛々しい憧れのあの人の事ばかり。 「何年経ってもきっと慣れないだろうな」 深い溜息をつく。 溜息は白い壁に吸い込まれてすぐに静寂が襲ってくる。 「実家にいた時は『うるせぇ』とか『ウゼえ』とか言ってたのにな」 失ってみてわかる家族の大切さってヤツか。
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