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高校にはほとんど行っていない。
後は冬の試験を受ければほぼ終わりとなる。登校日に少し行くだけになった。
家を出てからもう4か月。
世間はジングルベルが流れ、年の瀬の浮かれた雰囲気でいっぱいだ。
「ねぇ、聞いてる?」
「あ?」
「今年初めてのクリスマスでしょ。一緒に過ごしたいなぁって思って・・・」
隣の髪の長い少女が腕に絡みついてシナを作る。
「香奈はねぇ、プレゼントも考えてるんだよ」
なんだか耳に入ってこない。赤と緑に彩られた街を見ていると、にぎやかに男だけでパーティーをした去年の光景を思い出す。
「ねぇ、聞いてるの?理玖ぅ~」
「うるせぇな」
「ひっ酷い!」
「ああ、ごめん。考え事してて・・・・それと俺、クリスマスは仕事だから・・・・」
香奈の高い甘えた声が雑音にしか聞こえない。このまま引きずっていても彼女を傷付けるだけだ。
「香奈、あのさ・・・・」
「なに?」
大きな眼を見開いて何か期待するように見上げてくる。
この眼が兄ちゃんに似ているような気がして付き合ってみたけど、やっぱり全然違う。ぐいぐいと押されてつい流されるように付き合ったが、やっぱりあの人とは違う。
香奈の肩を掴んで顔を近づけた時、電柱の陰に黒っぽい影が覗いていることに気が付いた。
「香奈、誰かにストカーされてる?」
「えっ?そんなこと気が付かなかったけど・・・・」
「ふーん。なんだか、ずっとつけられてる気がするんだよね」
「やだ、怖い!」
「今日は家まで送るよ」
「えっ、でも今日は映画に・・・・」
「危険だからさ、家まで送る。また今度埋め合わせするからさ」
本当は別れ話をしようと思ったのに・・・・とんだ邪魔が入った。
彼女のマンションに送り届けると、今度は不審な車が追いかけてきた。
「やっぱつけられてるな。家からあんまり出ないようにしろよ」
「うん、ありがとう」
帰ろうとすると香奈が袖を引っ張った。
「なに?」
「寄って行かないの?」
明らかに誘うような目でじっとこちらを見る。好きな女からの誘いだったらもちろん乗るところなんだろう・・・・なのに口からは謝罪の言葉が出ていた。
「ごめん」
「え?」
「帰るわ」
あの目が兄ちゃんだったら・・・・・そんな事ばかり考えてしまう。
もう限界だ。彼女を傷つけないようにすぐに別れてやるべきだな。
見送る少女をよそに俺はさっさと背中を向けた。
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