無重力の砂時計

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極道の血が騒ぐような高揚感を感じていた。 芸能界でもその道につながることも多いが、生ぬるい脅しやヤク絡みのいざこざ、興行の挨拶などなど大した争いごとにもならない。 覇権争い、駆け引き・・・・どれも命を賭けたぎりぎりの攻防だ。 その緊張感は恐ろしいと同時に快楽に感じる時もある。 香奈へのストーカー行為は1週間ほど続き、今はぴたりと収まった。そうすると狙いはこの俺ということになる。 「まさか赤龍か?兄ちゃんたちになんかあったのかな」 足抜けしたといっても兄弟であることは変わらない。極道では堅気の人間に手を出さないという掟もあったが、今では風化しつつある。ましてや”赤龍”は中国マフィアだ。極道の掟も常識も通用しない。 連絡を取らなかったが七生の携帯番号は消していなかった。 すぐに電話をかけて様子をうかがうことにする。 家を出る時、携帯を取られてしまった。 二度と兄にも舎弟たちにも連絡を取らないようにするためだ。 でも、組の事は把握しておきたい。 七生のアパートを出る時に、こっそりメモでヤツのメールや電話番号を渡してもらっていた。 監視役として恭介や真一もいたが見逃してくれたようだ。 一応、舎弟たちには愛されたいたんだと思う。みんな口には出さないが繋がりを立つことを良しとはしていないようだった。 七生は電話を受けてびっくりはしたものの、すぐに涙声で喜んでくれた。 「りっくん、お久しぶりです。お元気ですか?」 「ああ、元気。みんなは?」 「ええ、何とか元気でやってますよ。でも・・・・・」 「でも?」 「こんなことりっくんに言っていいことやら・・・・」 「なんだ?」 「この前、六本木で男がいきなり刃物で通行人を襲った事件・・・・・ありましたよね」 「ああ、ニュースで見た」 「あれ、強い幻覚作用のあるドラッグをやった男らしくて・・・・そのドラッグ、”赤龍”が新しく開発してあの界隈で売りさばいているらしいんですよ」 「六本木も俺たちのシマあるだろ?」 「ええ、シマにも食い込まれてきてまして・・・・組長が落とし前つけるってかなり怒っていらっしゃって・・・・」 「そりゃそうだよな」 「その事件を起こした男が出入りしてた店がウチの配下だったらしくて、店長が身柄取られまして・・・・」 「警察が入ったのか」 「なんだか、雷文に罪をなすりつける算段みたいなんです」 「なんてこった。それで?兄ちゃんはどうしてる?」
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