無重力の砂時計

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「おい、組長批判か?」 「いや・・・・そう云うつもりでは・・・・ないです」 「でも・・・・心配だな。会長の知恵を借りるのも癪に障るが・・・・この際相談してみるのもいいかもしれない。洋次に言って、会長に話すのも手かもしれない」 「会長ですか・・・・またややこしくなりますね」 「兄ちゃんの様子次第では仕方ないだろ?」 「わかりました。兄さん方にお話ししてみます」 「七生、悪いな。兄ちゃんの事、頼む」 「そんなこと当然ですよ。俺たちは雷文の舎弟なんですから・・・・それよりりっくんこそ気を付けてくださいね。ヤツラの襲撃があるかもしれません。すぐ俺たちに連絡してくださいよ。すぐ駆けつけますから・・・・」 「わかった・・・・ありがとう」 七生とはそこで電話を切った。 しかし、彼から話を聞いたことで、余計兄の動向が気になってしまった。 今何を考え、なにをしているのだろう。なにか一人で抱え込んでいるのではないか。 不安ばかりが募ってくる。 こんな時、傍にいれたのなら・・・・近くにいるのに、遠い存在になってしまった兄に思慕の念を禁じ得ない。 そのまま香奈に電話をかけて別れ話をする。 心に恋の残骸を残したまま、彼女と付き合うのは失礼だと思ったのだ。 電話の向こうで泣きじゃくる声・・・・それに対してただただ謝ることしかできなかった。 また太腿に刻んだ彼の名が疼いて心を凍らせる。 恋しくて、恋しくて仕方がない。もう戻ることができないのだろうか。 触れられなくてもいいから傍に置いて欲しかった。 これは彼の心と躰を蹂躙した俺への罰なのだろうか。 窓の外はちらちらと空から白いギフトが届けられた。 今日はクリスマス。 深い闇夜にちらちら舞い散る雪がしんしんと大都会・東京を冷やしていく。 窓の外を見ながらガラスに映った自分を平手でたたく。 もし神様がいるのなら、俺の願いを聞き届けて欲しい。 『一生愛する人の元で生きることを許してください。あの人の元に帰りたい』 一度破門されたものがまた戻ることなどできない世界。 いくら神様でも手が出せない領域だよな。 冷え切った顔に熱い一筋の滴が撫でていく。
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