触れる指

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年末年始は飲み仲間とパーティをして過ごした。 一人で部屋にいるのが嫌だったからだ。クリスマスに香奈と別れてしまったし、一緒に過ごす人もいない。女と過ごすより、こうやって男同士で騒いでいる方が気が楽だった。 今日はモデル仲間と二丁目の行きつけのバー『神無月』で貸切で騒いだ。 「あれ?理玖ちゃん、未成年じゃなかったっけ?」 「え?そうだっけ?」 仲間たちはみな二十歳を超えていたが、自分だけ未成年だった。 「まぁそんなに硬いこと言わないで」 「あんたねぇ、これバレたら営業停止になっちゃうのよ」 「わかったよ。もうこれくらいでやめておくよ。ちょっと眠くなってきたし」 「奥のソファ使いなよ。お仲間は適当に飲ませておくから」 「金は会費で取ってあるからこれ渡しとくわ。追加で飲む奴は本人から徴収してね」 「はいはい。まったく・・・・高校生が飲むんじゃないわよ」 「ごめんなさぁ~い」 一人奥のソファに横になった。 酒は弱い方ではない。だから別に酔っているわけでもないが、ここはカンナママの顔を立てないといけない。ワッと盛り上がったし、カラオケしたり踊ったりして騒いだから、少しは気が紛れた。 じっとしているとあの人のことしか考えられなくなって辛い。 この頃ふと兄の幻影すら見えてしまうことがある。こうなるともういき病気の域だ。 「今何してるのかな。”赤龍”に押し込まれてないかな」 いつも凛として舎弟たちに指示を飛ばす兄の姿、抗争の中で敵のリーダーに容赦なく弾丸を浴びせた彼の冷酷な笑み・・・・・・すべてが懐かしい。 「四か月会ってないだけなのに・・・・禁断症状が出るなんて・・・・兄ちゃん・・・・」 そうつぶやきながらクッションを抱きしめていたら、いつの間にか深い闇の中に落ちていた。 目が覚めるとカーテンの隙間から陽の光が漏れている。 「あれ?どこだココ」 なにか頭に固い枕があって、それが何か手で探ると「ひゃっ」っと野太い声が聞こえた。 「うわっ、ママ!なに膝枕なんか!」 「なんかアンタが可哀想になっちゃってさ」 ビックリしすぎて壁まで後退りしちまったじゃないか。 「あれ?他の連中は?」 「それぞれ相手見つけて消えてったわよ」 「あー?」 「モデルとオカマの合コンなんてさ、こっちにしたらおいしいじゃない?お仲間みんな食われちゃったと思うわよ」 「あらら、ホント?」 ということはママと二人きりだ。
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