無重力の砂時計

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北海道の一件以来、兄とは毎日同衾を許され、ほぼ毎日と言っていいくらい躰を重ねている。 契約上、自分が求めれば彼は応じざるを得ないが、だんだん自分の方が躰を気遣ってある程度は遠慮するようになった。 欲しい、欲しいと我武者羅になっていた頃は自分の事ばかりで相手の気持ちまで考える余裕がなかった。 今は多忙な兄の仕事への配慮や、顔色を見て疲れを感じたら遠慮をすることができるようになった。 高校三年になって授業も自習が増えてきた。『学校には行かなくていい』と言ったのに兄に反対され、まだ学校通いが続いている。 ダチ達も進学や就職で忙しく、だんだん話も合わなくなってきた。 すでに何も考えなくていい子供の時代なんてとうの昔に終わっているのに、なんで学校にこだわるんだろう。 自分が高学歴組長だからなんだろうか。 勉強なんかとんとやる気もなく、学校に来ている意味も分からない。兄の側に居られない時間があることにだけ危機感さえ感じていた。 「一緒に居られねぇのに、躰ばっか要求してたら契約違反だよなぁ」 英語の自習をしながら深い溜息をついた。 桂斗は部屋で黒のスーツに着替えながら、テーブルの上に置いてあったトーストとスムージーを見ていた。 皿の下にメモが挟み込まれている。 『兄ちゃんへ     会長の家に行くみたいだけどくれぐれも気を付けて。   あの人は節操ないんだから、襲われないようにね。   雪兎さんによろしく。                        理玖  』 「そんな隙みせるか、バカ」 立ったままトーストを加えてふと本棚の方に目がいった。 本棚には倒れた写真立てがある。 一つ溜息をついて写真を立てかけてじっと見つめる。 そこには無表情の黒スーツの男が写っていた。 「浩司・・・呆れてるよな」 そっと写真を指で撫でる。 中の男は横顔だ。決して写真に納まろうとせず、隠し撮りの形でやっとスマホで撮ったものだ。なので葬式の時も遺影なしだった。 「横を向いたままなのは、俺を軽蔑しているからだよな」 横顔の男は答えてはくれない。 「俺と理玖が寝てるのはあの世から見えてるんだろ?理玖の行き過ぎた行動を押えるために躰を与えているつもりだったけど・・・・結局、俺がひと肌を欲して理玖を利用しているだけのような気がしてきた。 体のいい理由をつけて・・・・俺が淋しさを埋めるために弟を利用しているのかな」
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