触れる指

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「そうだな。ただ俺は佐竹より、兄ちゃんよりガキだ」 「いくらでもサポートさせていただきます」 「ありがとう」 雷文にはいい舎弟がいる。俺たち兄弟だけでは決して今の地位はない。 佐竹が兄と極道の頂点を目指そうとしたのなら、自分も兄と頂上を目指そう。 それがアイツに勝つことになるような気がする。 新年会は無事に終了した。 組長たちも身も凍るような腹の探り合いをして、いろいろな手ごたえを感じて帰路についたのだろう。一応分裂だの、抗争だのも起きずに平穏に過ぎていく。 いくつか気になる組もあったのは事実だが、今は中国マフィア”赤龍”を共通の敵として戦うことでまとまった気がする。 帰りの車の中で、さすがに疲れた顔の組長がいた。 自分の着つけた紋付は崩れることなく綺麗に着こなしている。 「お疲れ様でした」 「お前たちもご苦労だったな」 車内にいる自分と舎弟たちに労いを口にした。 「副会長は少し敵意を感じましたね」 「あの色ボケじじぃ・・・・なにかしっぽを掴んで失脚させてやる」 「少し顔ぶれが変わりましたね」 恭介がバックミラー越しに組長に話しかける。 「そうだな。新参も結構いたな。それに世代交代に失敗した組もあったし。実子と若頭が衝突してお互いが潰し合ったところも5つくらいあったようだし」 「その様ですね」 「うちは実子が継いだが・・・・・本来力のあるものが組を継いでいくことが一番、組の安泰なんだがな・・・・・」 「そこは親子の情というものが目を曇らしてしまうんでしょうね」 「小野塚コトのところだってそうだ。コトに最初から決めてれば、親父さんだって幽閉されることもなかっただろうに・・・・・」 「なんだか奄美で亡くなったと聞きました」 「そうか。兄貴は?」 「精神病院に今も幽閉されているとか」 「兄弟で喰い合うのもこの世界の常だなぁ」 流れる景色を見ながら組長は深い溜息をつく。兄弟が喰い合う・・・・違う意味で兄を喰ってしまったなぁと不埒なことを頭の中で考える。 生き死にの”喰い合う”のはこの世界の常だが、色事で喰い合うのは稀だろう。 思わず後部座席の肘掛けに置いてある兄の手をこっそり握りしめる。隣の人ははっとしてこちらを見ないように顔を背けたが、耳まで赤くなっているのを見逃さなかった。 本当に組長の顔と全く違うかわいい一面を見せてくれる。この人こそ本当の【麻薬】だと思う。
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