魔王の恋人

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久々に帰るこの部屋。数か月前に出ていってから何一つ変わっていない。 綺麗に整頓されていて、まるで住んでいなかったかのように生活感のない部屋だった。 「此処に帰ってきてないの?」 「そんなことないよ」 「なんかきれいすぎて使っている感じがないんだけど」 「ああ、毎日掃除してくれているし・・・・」 兄は家事全般苦手だ。部屋の片づけはもちろん料理も、洋服すら自分で選ぶことができない。舎弟たちがやってくれる環境だったこともあるが、あの男が執事のように付き纏って何でもやってしまっていたからなんだと思う。 ただ一つ違うところを発見した。戸棚に飾ってあった無愛想な男の横顔の写真が消えていた。いつもここで俺たちの痴話げんかも、情事も見届けていたあの写真が・・・・・・忽然と姿を消していた。 それはあの男の亡霊を忘れたという意味だろうか。それとも新しい男を作ったということで罪の意識があるのだろうか。 組長は部屋で羽織を脱ぎ、ぽんとソファに投げ出した。 「さすがに着物は疲れる」 「ちょっと・・・・普通の上着と違うんだからくしゃくしゃにして投げるなよ」 「だってすぐ脱ぎたいし・・・・」 「ちゃんと衣紋掛けに吊るさないと・・・・」 「いつもやってもらってたからな」 「これからは俺がやってやる」 「・・・・いいよ、そんな事」 「だって・・・・佐竹だってやっていたんだろ。俺だってできる」 「・・・・・・」 「アイツより気が利かないかもしれないけど、兄ちゃんの事なら何でもやりたいんだ」 「アイツの真似なんかしなくていいんだぞ」 「真似じゃねぇ!俺だけの兄ちゃんにしたいからだ」 「・・・・・・バカだな」 「ああ、バカだよ」 しばらく沈黙が部屋の中を包んだ。佐竹を想いだして辛いのかもしれない。でも自分は自分なりにこの人に尽くしていくつもりだ。 「・・・・・まぁいい。好きにしろ」 最後はくるりと背を向けてクローゼットの方に歩き出した。自分でしゅるしゅると帯を解く音がする。 その音で、あることを思い出して彼の背中を追いかけた。 「兄ちゃん待って」 「あ?」 「袴、汚してないよね」 「なっ///お前・・・・・」 「でも気になるからクリーニングにすぐ出そう」 手際よく彼から袴を剥ぎ取ってすぐに舎弟を呼んでクリーニングに出すよう申し付けた。傍らには前あわせを押えた真っ赤な顔の組長が佇む。
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