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 そんな鮫島を香久山は扱いかねている。  大事にするだけなら簡単だし、愛してやるだけならもっと簡単だ。でも、鮫島の心に巣食った闇は、そんなことでは払拭できないほど根深い。鮫島が求めているものが、三ヶ月経って香久山には分からなくなっている。 「姫、ありがとう」  髪を拭きながら鮫島が言った。 「いいえ、いつでもどうぞ。夕食、食べて行くでしょ」  言われ、鮫島は躊躇いがちに頷いた。  他人から与えられることに慣れていない鮫島は、香久山がなにか言うたびに小さく視線を泳がせる。それが躊躇を表していることに香久山が気づいたのはつい最近のことだ。 「姫、いつも悪いね」 「風呂のことですか?」 「風呂もだけど、食事も……他にも色々…」  香久山は鮫島を見つめてにこっと笑った。 「いいんですよ、そのぐらい。私なんかでよければいくらでも頼って下さい」 「…でも、僕はきみになにも返せない」 「あのね、凪───常にイーブンでいられる関係なんてないんですよ、親子でも兄弟でも親友でも恋人でも。親しければ親しいほど、頼ってもいいんです」 「僕は親しい相手ほど頼れない」 「そうですか? 私なんかは、決して裏切られないと信じた相手には我儘に振る舞っちゃいますけどね。私は貴方を裏切りませんからどんどん甘えちゃって下さい」  鮫島は不思議そうな顔で香久山を見つめた。 「姫が我儘してるところなんて見たことないが」  香久山は小さく笑って鮫島の前にシチューを置いた。 「今の私が我儘を言える相手は貴方ですよ。でも、肝心の貴方が私に頼ってくれないんじゃ、私だって我儘なこと言えないでしょ」 「たとえば?」 「そうですねぇ……」  人差し指を顎に当てて香久山はにっと笑った。 「貴方を裸に剥いて風呂に入れて、身体の隅々まで洗って、指を入れて掻き回して、めろめろになっ…」 「わーっっ! もういいよ、もういい、分かった。その顔にごまかされないようにしないと」 「私、男ですから」 「僕もだ」  頬を強張らせて言った鮫島を香久山は無表情に見た。
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