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「分かってるんだ、僕だって───今の状態が不自然だということぐらい」
「どういうところが不自然?」
言われ、鮫島は俯いた。
「私が不自然だと思っているのは、男同士だという点だけですよ」
「本当?」
「ええ、本当です。私が嘘ついたことありました?」
「……ないけど…」
口篭もる鮫島の正面に座った香久山は、手を合わせてからスプーンを取った。
「世間では男同士は認知度が低いですからねぇ、貴方が他人からの白い目に耐えられるのかどうかが私の最大の不安です。他には特にないですね」
「嘘だ」
「嘘なんか言いません。強いて希望を挙げるなら、もう少し頼って欲しいということぐらいですか。貴方は私より年下なんだし、堂々と甘えていいんです。年下の特権なんだから、手札としてどんどん切らないと」
しつこいほど言葉を重ねてやらないと、鮫島は好意を受け入れることができないらしい。主治医の宮辺からの指示通り、香久山は根気強く鮫島に語りかける。嘘偽りのない言葉こそが鮫島の薬だ。
出された食事を黙々と食べ、食べ終えた後の食器を流しに運び、鮫島は香久山にごちそうさまと言った。
部屋を出て行く鮫島を見送り、香久山は小さく溜め息をついた。
鮫島を愛している。誰よりも大切だし、これからも大事にしたいと思っている。でも、こんな風に、両親の代わりをしたいわけじゃない。香久山は鮫島と恋愛がしたいのだ。長い時間をかけてようやく両想いになれたと思ったのに、彼らの関係は一進一退を繰り返す。
鮫島の生い立ちを思うと、他人から寄せられる好意を受け入れられなくなるのも当然だと香久山だって分かっている。理性では分かっているのだ、それこそもう嫌というほど。でも、香久山の中のオスの部分が理性を食い破ろうとする。犯すようにしてでも抱きたくなる瞬間があることを、香久山はもう否定できない。
でも、もしもここで抱いてしまったら、鮫島からの信頼を香久山は永遠に失うことになる。
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