第9章  月夜の涙

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お腹は空いているが、食べたい物がない。 金曜の夜だというのに、浮き立つ心もない。 それ程までに、彼女には昨夜の衝撃が大きかった。 「那々、俺にチャンスをくれないか?」 約束通り、木曜の夜に会った直之に唐突に言われた。 場所は、夜だというのに、いつもの喫茶店。 そして、間にコーヒーを挟んだ空気までがどこか重く、 その空気同様に、重たい彼の口から出てきた言葉に 那々は、一瞬声が出なかった。 正直、いきなり飛び出してきた言葉は、那々の理解からかけ離れていた。 しかしそれでも彼は、まだ硬い表情のまま、ひどく真剣な声で言う。 「俺、必ず埋め合わせは……、なんていうか、 ちゃんと幸せになれるように頑張るから」
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