前編

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あれは5年くらい前のことだったか。 副社長からお呼びがかかり、小一時間ほどの長話に付き合わされた俺は、大事な来客を迎える時間が迫っていることを伝えたことでやっと副社長から解放された。 副社長室から自分の部署である第一企画室に戻る途中で見慣れない女性とすれ違った。 軽く会釈をされ俺も会釈をしたが「誰だろう?」と振り返った瞬間、副社長から渡された資料やらパンフレットやらが手から滑り落ちた。 「あっ!」 思わず声を上げ散らばった紙の束を拾い集めていると「大丈夫ですか?」とさっきの女性が戻ってきて拾うのを手伝ってくれた。 手際のよさに感心しながら受け取り、お礼を言う。 「すまなかったね助かったよありがとう。えっと君は…」 「私は管理部の東です。よろしくお願いします、中原室長」 俺のこと知っているのか。 「東さん、本当にありがとう。それじゃ」 「あ、待ってください室長。ズボンの裾がほつれてますよ」
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