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栄太郎と一緒に住んでからまだ数日しか経っていないせいか、未だにこの人のことは、よく分からない。
一つ言えることは、とにかく変わってるとしか言えない。
私は、パンを時々かじりつつ、朝の支度を始めた。
「今日から勉学に励むんだよね?面白そうだし楽しそうだし……羨ましいなぁ」
「羨ましいかぁ?確かに歴史を学べるのは面白いけど、テストのことを考えると苦痛でしかないけどな」
小さなテーブルに鏡を立てて、化粧をしながら話す。
眉を書くためにぱっつんの前髪を上げて書き、頬にかかる茶髪が邪魔だから後ろ一つにゴムで結んでいる。
テーブルの向かい側に栄太郎は、頬杖をついて、私のことを見ていた。
あまり化粧をしているところを見られるのは好きじゃない。
だけど、一緒に暮らしている以上、仕方ないことだとは思っているけど、栄太郎に関してはガン見に近い。
そんなに女性の化粧は、珍しいものなのだろうか。
「てすと?って、なに?」
「……定期試験のこと。なんだか、栄太郎ってたまに馬鹿みたいなことを聞き返してくるよね」
「ごめんね。聞き慣れない言葉だから」
「はぁ……」
ビューラーでまつげをカールさせてマスカラを塗り終えると化粧道具を乱雑にポーチに仕舞い込んだ。
「そういえば栄太郎って、歳はいくつなの?」
「うーん。いくつだろう?確か、死んだ時が……数えで二十七だから、今も二十七……かな?」
「はあ?何言ってんの、お前」
「ごめん、今のは僕でも何言ってるのか、さっぱり分かんないかな」
最後のパンを口の中に放り込んだ私は怪訝な顔をして栄太郎を見ると彼は、苦笑いをして、テレビへと視線を逸らしてしまった。
別に悪い人では無いのは分かるけど、性格が少し変わってるってことは分かった。
とにかく彼は、知らないことが多すぎる。
テストという言葉もそうだ。
横文字を知らないし、生活の仕方だって不慣れな人だ。
台所、風呂、テレビ等々、すべて知らない。
この人、今までどんな生活をしてきたんだろう。
「この箱の中の人、ここ数日ずっと、人が殺された話してるね」
「そんなこと、しょっちゅうだよ。事故したり、麻薬だったり、虐待だったり」
「ふーん。下手人は見つかるの?」
「下手人?」
頬杖をついたままの栄太郎は、テレビを見つめてポツリと呟く。
その話に応えると彼は私を見た。
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