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私、なに考えてんだろ。
相楽さんには、いろいろとお世話になっているところがあるだけで……。
「相楽さんと言えば、やっぱし大樹四郎だよねー」
「・・・」
「ねー?四郎ちゃん?」
「江戸から思っていたが、お前はお喋りがすぎる。少しは口を慎むことを覚えろ」
「はい、すみません。調子乗りました。もう喋りません」
今まで必要以上のことは話さなかった大樹に話題が振られたものの、彼の冷めきった正論に渋谷は、肩をすくめた。
私と西やんに目配りをして、やれやれと言った態度を見せる。
大樹の言葉以降、渋谷は、つまらなさそうにしつつも、口を噤んでしまい話すことは無くなった。
私達一行は、会話一つなく無言の空気のまま、次の宿まで歩き進めた。
「遠路はるばるご苦労、おいが薩摩の西郷と申すもんで」
「この度は、坂本殿の護衛を任せていただきありがとうございます」
この人が……西郷隆盛……。
大津宿に一泊し、翌日京都へ着いた私達は、薩摩藩邸へと足を運んでいた。
広間で相楽さんと西郷さんが話している中、後ろへ控えて西郷さんをまじまじと見つめる。
どっしりとした存在感。
彼をひと目見た瞬間に緊張感を覚えた。
「さっそく、坂本さぁの護衛をと言いたいんだが、今彼は残念ながら此処にな居ん。市中に居うとは思うが何処で何をしておいやしか、まこて持って分からん。坂本さぁを見つけて、直接話をしてほしか」
「承知致しました」
相楽さんが西郷さんに頭を下げ、急いで私も畳に手をついて頭を下げる。
西郷さんが部屋を出ていく足音が聞こえた。
ピシャリと襖の閉まる音が聞こえると同時に広間の緊張感が和らぐ。
「へぇ……やっぱり、お偉いさんとの空気は苦手だぜ」
「分かるぅ。ほんと睡魔との闘いだよねぇ」
「お前との会話は毎回ズレてんだよなぁ」
正座していた山田さんが足を崩しながら、そう言うと高山さんがヘラヘラと笑いながら応えた。
山田さんは苦笑いを零す。
上座の方を向いて座っていた相楽さんが腰を上げるとこちらを振り返った。
「よし!!今から坂本殿を探しに行くぞ!!それぞれ三人一組になって手分けして探す。えっと……どう分けたものか」
笑みを浮かべた相楽さんは、周りのモチベーションを持ち上げるためか、握り拳を掲げて気合を見せる。
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