67人が本棚に入れています
本棚に追加
「あまり良い天気ではないな」
京の町へと出た私達は、町人が行き交う大通りを歩いていた。
隣を歩く丸橋さんは、どんよりとした灰色の空を眺めて呟く。
はぁ……と息を吐けば白い。
雪が降り出しそうな気候だった。
「そういやぁ、坂本さんを探すっつうけど、肝心の本人の顔が分かんねぇんだよな」
「相楽総裁曰く、随分と変わった方だそうだ。土佐の訛り口調にクセのある髪をしていると聞いた」
「はっ……そりゃ、探しやすそうだわ」
私と丸橋さんの後ろを歩く山田さんに丸橋さんが肩越しに振り返って答える。
それに山田さんは、片方の口端を上げて笑った。
坂本龍馬。
薩長同盟を結び、日本を変えた男。
いったい、どんな人なんだろうか?
有名な歴史人物に会えると思うと私の胸は自然とワクワクしていた。
この時代の京都の雰囲気を目で楽しみながら、坂本龍馬を探す。
そんな時だった。
私達の前方でガラの悪い浪士の前に追いかけっ子をしていた子どもが飛び出して、その人とぶつかったのだ。
嫌な予感と思った時には、浪士は大声を上げていた。
「おい!!ガキ共!!どこ見て歩いてんだ!!あぁ!?」
「ひ……」
「ちっ……躾の成ってねぇガキ共だな!!」
浪士にぶつかり、尻もちを付いた子どもとその友達と思われる子どもが怯えている。
浪士が腕を振り上げた。
な……っ、あの野郎!!
子どもを殴る気か!?
立ち止まって見ていた私は、ジャリッと地面を踏みしめて、止めに入ろうとする。
しかし、それより先に横合いから割り込んできたのは……。
「おやめ下さい。子どもを打つなど、非道にも程があると思いませんか?」
「邪魔をするな!!」
騒ぎを聞き付け、浪士と子どもの周りに集まってきていた町人達の間をすり抜けて、子どもを背に立つ女性。
物腰柔らかく、控えめな人。
あのクールで凛とした幾松さんとは正反対の印象を持っており、とても浪士と太刀打ちできそうにもない。
蚊帳の外となり佇んでいた私達は、互いに目配せをして頷いた。
三手に分かれ、私は町人の間を縫って、浪士と対峙する女性の元へと近づいていく。
「この子たちが御侍様にとんだ御無礼をしたことは謝ります。しかし」
「ええい!!貴様も同じように無作法ではないか!!」
理不尽すぎる物言いをする浪士が刀に手を添えるとカチッと鯉口を切り、一気に引き抜いた。
最初のコメントを投稿しよう!