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「ぐぅ……!?」
「女性に刀を抜くのは感心しない」
「残念だが、奉行所に報告してやったぜ?早く逃げた方が良いんじゃねぇか?」
残念ながら浪士が刀を抜くことは、丸橋さんの制止によって叶わなかった。
町人の間から出てきた山田さんが得意気な笑みを見せて浪士を挑発する。
奉行所に報告、という言葉を聞いて浪士の表情に焦りが見え始めた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、助けていただき、ありがとうございます」
「・・・」
なんだ、この人……むちゃくちゃ可愛いな。
羨ましい……。
女性を背にして、浪士を警戒しながらも彼女を一瞥すると安堵した笑みを向けられて、不覚にも照れてしまった自分が居た。
こんな女性だったら良かったのに、と密かに願望が芽生えたものの浪士を見た瞬間にそれは儚く崩れていく。
浪士は、丸橋さんの手を振り払った。
「くそったれ!!覚えてやがれ!!」
「おうおう、威勢だけはいっちょ前じゃねぇか。次も返り討ちにしてやるよ」
「ま、それまで覚えてるとは思わないが」
そのまま私達に捨て台詞を吐き、人混みの中へと走って逃げていく。
走り去る浪士の背中に山田さんと丸橋さんは、したり顔で見送っていた。
そんな彼らに子ども達が駆け寄っていき、丸橋さんは目を細めて子どもと目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「兄ちゃん達、ありがとな」
「どういたしまして。これからは、ちゃんと周りを見て遊ぶんだよ?」
「うん!!ちゃんとするよ!!ありがと!!」
「それから、僕はお兄さんだが、隣の人はおじさんだから言葉遣いを気を付けてね」
「マル、てめぇ……変な事吹き込んでんじゃねぇぞ!!お前もおっさんだろうが」
始まったよ、このコンビの茶化し合い……。
私は二人がまた言い合う様を見て苦笑していると子ども達は、『おじさん、またね』と言って去っていった。
ちなみにおじさんと言っているが二人ともまだ二十代後半組である。
隣にいた女性は、二人の話を聞いて口元に手を添えて笑っており、私もつられて笑う。
そうしていると足音荒く此方へ走ってくる気配がして、振り向くと若い少年が女性の元へやってきた。
「す、菫!!大丈夫か!?怪我は無い!?」
「あ、平助さん。この方々に助けて頂いたので大丈夫ですよ」
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