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「そういえば、あれから彼はどうなったんだ?圭介君だっけ?」
圭介は同じ高校に通う僕の友達だ。
学級委員の小湊さんという女子の気持ちを振り向かせようと馥郁堂を訪れた際に、偶然暇潰しに来た千草さんに捕まり、胡散臭いアドバイスを伝授されたという経緯がある。
「どうにもなってないよ。多少は仲良くなったみたいだけど、相変わらず。でも僕等三人、同じクラスに進級したんだ。だから頑張り次第では脈はあると僕は見てる」
「いいねぇ、青春だねぇ。でも早くしないとその脈も無くなっちゃうよ」
「え?なんで?」
「だって君達受験生でしょ?恋愛なんかしてる場合じゃなくなるよ。あんたも進路決めたの?」
ーー受験。進路。
僕が今一番逃げている言葉だ。
いつかは必ず対峙しなければならない相手なのに、戦い方が分からない。
その先にどんな景色が広がっているのか、想像するのも難しかった。
君達には光り輝く将来がある。限りない可能性を秘めている。そう大人達から言われて育ったのに、急にナイフのように現実を突きつけられ、夢を見るな、堅実に生きろと無難を強要される現状は梯子を外されたようで、自分を取り巻く変貌にうまく対応できずにいた。
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