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「ま、まぁ焦らなくてもまだ時間はあるし、ゆっくり考えなよ」
僕が俯いて黙ってしまったからか、珍しく千草さんは気を使って励ましてくれた。
「そ、そうだ!それより例の覗き魔は?」
沈黙と馨瑠さんからの冷たい視線に耐えられなくなったのか、千草さんは一人で話し続ける。
「前に店の中を物陰から覗く奴がいるって言ってただろう?あれからどうなった?」
千草さんの言う覗き魔とは気の弱そうな若い男で、時折やって来ては道を挟んだ反対側から店の様子を伺っている。
「ああ、彼か。風景の一部になるくらいには来ているな」
馨瑠さんはあまり興味が無さそうに答えた。確かに週一回くらいは見かける気がした。声をかけようとすると居なくなってしまうし、馨瑠さんが放っておけと言うので今のところは放置している。
「ストーカーかな?ストーカーかな?」
千草さんは面白いネタを見つけた時の何か企んでいる顔をすると、身を乗り出して馨瑠さんに迫った。
この人はいつもこうだ。興味本位で首を突っ込んで事態を大きくする。それでも屈託の無い明るさと人懐こさで、何故か憎めない。いわゆる得な性格だと思う。
「ストーカーなら話しかけたら逃げないんじゃないか?それに覗く以外に何もしてこないからな。やっぱりただの覗き魔だよ」
馨瑠さんは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情で一蹴した。
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