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俺は家の前を横切る二車線の道路に出た。左右を確認すると、そこには10台以上の事故車が黒煙を上げながら炎上していた。
その殆どは正面衝突か歩道に突っ込んでいた。どちらも車が大破していてブレーキを踏んだ様子がなかった。
交通事故を起こした車の先には漏れなく血の花が開いていた。
つまり運転中に対向車線の運転手か歩道の歩行者と目が合って……。
「た……助けてくれ!?」
離れた場所から男の声がした。
俺は咄嗟に声がした方へ向かった。
そこには1台の乗用車が横断歩道近くの電柱に突っ込んでいた。その乗用車はフロントが酷く潰れ、僅に開かれた窓から手がぶらぶらと助けを求めていた。
正直な話をすれば近寄りたくなかった。ユイの二の舞にしたくなかった。それでも俺は少し離れた位置から「大丈夫か?」と声をかけた。
「おぉ、助けてくれ。誰かわからんけど頼む。体が動かん」
近くで聴くと男は酷い鼻声で、とても聞き取りづらかった。
「……分かった。じっとして下さい」
「おぉ……ありがとう。頼む」
乗用車の窓を覗き男を見た。男は意識が朦朧としているのかハンドルに項垂れていた。外見は60歳くらいで白髪混じりの髪にビジネススーツを着た格好のいいおっさんだった。
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